認知症とは
認知症は認知機能が低下し、日常生活や社会生活で障害を示す「状態(症状)」を指します。あくまでも「状態(症状)」を指したもので、その背景となる「疾患(病気)」を指したものではありません。たとえば「発熱」は熱がある状態を指すだけで、風邪や肺炎、胃腸炎、膀胱炎など様々な病気で発熱を示します。同様にアルツハイマー病や脳血管性認知症、レビー小体型認知症などの様々な疾患で認知症という症状を示します。
物忘れと認知症
医学的には「物忘れ」だけでは認知症とはしません。その理由としては、年をとってくるに従ってある程度の記憶力の低下を示してくること。物忘れだけの状態でそのまま進行しない高齢者の存在が確認されていることから、物忘れの段階ではその背景に認知症をおこす疾患が存在していることを臨床的に確認できないからです。またこのような診断的な側面だけではなく、物忘れだけであれば(もちろんその程度にもよりますが)、もちろん捜し物が増えたり、確認の作業が増えたりするでしょうが、日常生活は独立して可能だからです。つまり障害の程度として、介護や支援が必要ないということで、あえて認知症という障害の程度で規定された状態に含める必要がないからです。
軽度認知(機能)障害、mild cognitive impairment (MCI)
しかし、「物忘れ」はあるけれども、ほぼ日常生活や社会生活が自立している人たちは正常としてよいでしょうか?以前はこの方々の多くは加齢による健忘、良性健忘などと呼んでいました。つまりあまり病的な意義はないと考えてきたのです。しかし、最近の研究からこのような物忘れを示す人たちが、認知症に移行する割合が非常に高いことがわかってきました。近年の治療の進歩に従い、これら「物忘れ」を示すが認知症といえない人たちを軽度認知(機能)障害、しばしばMCIと呼ばれるようになり、積極的な診断・治療の対象になってきています。MCIは概念的には認知症と正常の中間と考えると理解しやすいと思います。この中間状態という考え方が広がり、専門的には記憶以外の認知機能の軽度の低下状態も同様にMCIに入れる場合があります。
現在は、この段階の患者においても出来るだけ背景疾患を探る試みが行われるようになっています。
発症前アルツハイマー病
さらにアルツハイマー病の病態を考えると、全く症状のない状態でも脳の中ではすでにアルツハイマー病の変化が生じています。この様に臨床症状のないにもかかわらず脳内にアルツハイマー病変化を持つ状態を発症前アルツハイマー病と呼びます。いずれこの方々が発症予防のターゲットになります。現在それを目指した臨床研究が行われています。
認知症を起こす疾患はさまざまありますが、頻度的にはアルツハイマー病、脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前側頭型認知症が主要な疾患です。
認知症の診断
認知症の診断は、まず認知症の状態にあるかどうかを判断することになります。もし、認知症であればその背景疾患に関して症状や画像所見から診断していきます。しかし、本来の確定診断には病理学的な脳内の変化の確認が必要であり、通常の臨床診断ではそこまでの診断はできないため、臨床診断の精度には限界があり、一般的には8割程度の精度と考えられます。
また、特に高齢者ではいくつかの病態が重なり認知症を生じていることが多く、特定の疾患名による診断が困難な場合もあります。