病因
今まで述べてきた認知症においては、その診断名は基本的に認知症を起こす原因疾患によりつけられ、それぞれの疾患の臨床的特徴からなされていました。しかし、前側頭型認知症は臨床的な概念でその背景の疾患を示したものではありません。Pick病(ピック病)といわれるものも基本的には前側頭型認知症をさしたものです。
分類
前側頭型認知症という言葉は混乱して用いられています。現在は以下のように分類されています。広く前頭葉側頭葉に神経変性(神経細胞が壊れること)があるものを前側頭葉変性症として大きく括り、その中の臨床症状で分類されています。そのうちの行動障害が目立つタイプを前側頭型認知症と呼びます。そのほかの2つのタイプは言語障害が前景になるものです。アルツハイマー病においても言語障害が目立つ場合があり、言語障害が目立つ場合アルツハイマー病との鑑別が重要ですが、初期にはその鑑別が難しい場合もあります。
前側頭葉変性症
a) 前側頭型認知症 = Pick病
b) 進行性非流暢性失語症
c) 語義性認知症
診断
若年性の認知症では前側頭型認知症の比率が高く、また症状がもの忘れではないことが多いため、職場での異常として気づかれることが多くあります。初期の症状としては周囲の人々への配慮がなくなり、状況に応じた行動や言動ができなくなります。職場では上下関係を無視した行動や言動、自分の都合や主張のみを優先した行動などが目立ちます。また極端に意欲が低下し、「やる気がない」「だらだらしている」様に見えます。そのためしばしば精神疾患と誤診されます。家庭では「横着」「不精」になり、子供がいやがることを繰り返し行ったりすることもあります。味覚の好みが変わったり、大食いになったり、アルコールの多飲がみられることもあります。特徴的な臨床症状を示す場合には診断は困難ではありませんが、精神疾患との鑑別が必要です。画像的には前頭葉、側頭葉の萎縮が認められます。同様に同部位に脳血流SPECTで、血流の低下が認められます。
治療
前側頭型認知症に適応が認められた薬剤はありません。しかし症状に応じて、抗精神病薬や抗うつ薬(SSRIなど)が用いられることがあります。